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北斗七星から届く謎の電波:2時間ごとに矮星連星から発信、国際チームが電波望遠鏡で解明

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2025年3月17日、科学界に驚くべきニュースが飛び込んできました。北斗七星の方向から約2時間ごとに規則正しく届く謎の電波が、地球から約1600光年離れた赤色矮星白色矮星の連星から発信されていることが、オランダ電波天文学研究所や英オックスフォード大学などの国際研究チームによって明らかになりました。この発見は、電波望遠鏡を使った長年の観測と分析の成果であり、英天文学誌「ネイチャー・アストロノミー」に発表されています。本記事では、この驚くべき発見の詳細とその科学的意義を、お伝えします。

 

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謎の電波が発見された経緯とその特徴

北斗七星は、おおぐま座の一部を構成する7つの明るい恒星でできた星列で、古くから多くの文化で愛されてきました。その方向から届く電波が注目されたのは、2015年から2020年にかけて欧州の低周波電波望遠鏡「LOFAR(Low Frequency Array)」が集めた膨大なデータを研究チームが解析したことがきっかけです。この電波は、約2時間ごとに30秒から90秒間という短い時間だけ発信され、その周期がとても規則正しいことが分かりました。

通常、周期的な電波の発信源として知られているのは、高速で回転する中性子星、つまり「パルサー」です。パルサーは強い磁場を持ち、数ミリ秒から数秒程度の短い周期で電波を発します。しかし、今回観測された電波の周期は約2時間と非常に長く、従来のパルサーとは明らかに異なる特徴を持っています。これが、研究チームがこの電波を「謎」と呼ぶ理由であり、新たな天文現象の可能性を示しているのです。

 

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発信源が特定 

研究チームは、LOFARのデータを基に電波の発信源を特定するために、さらに詳しい観測を行いました。まず、アメリカの光学望遠鏡を使って北斗七星の方向を詳しく調べたところ、質量が小さく低温の赤色矮星が存在することが分かりました。赤色矮星は、太陽よりも小さくて温度が低い恒星で、銀河系内にたくさん存在しますが、通常は目立った電波を発しないとされています。

さらに観測を進めた結果、この赤色矮星が単独ではなく、白色矮星と連星系を形成していることが分かりました。白色矮星は、太陽に似た恒星が寿命を迎え、燃料を燃やし尽くした後に残る高密度で小さな天体です。地球ほどの大きさに太陽程度の質量が凝縮されており、その密度はとても高いです。この連星系は、地球から約1600光年離れた位置にあり、両者が共通の重心を中心に約2時間で1周する軌道を描いています。

面白いことに、電波の発信タイミングがこの連星の公転周期と一致していることが分かりました。具体的には、地球から見て赤色矮星白色矮星が一直線に並ぶ瞬間、つまり白色矮星が手前に、赤色矮星が奥に位置するタイミングで電波が発信されています。この現象は、両者の磁場が相互作用し、特定の条件で電波が発生している結果だと考えられています。

 

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電波が発生する仕組み

では、なぜこの連星系から電波が発生するのでしょうか。研究チームはその仕組みを以下のように推測しています。赤色矮星は低温で活動が穏やかですが、磁場を持っていることが知られています。一方、白色矮星は強力な重力を持ち、その周辺にはかつての恒星活動の名残として磁場が残っている可能性があります。両者が近距離で公転する際、磁場が互いに干渉し合い、エネルギーを解放する形で電波が発生すると見られています。

この電波が地球に届くのは、連星系が特定の位置関係になったときだけです。白色矮星が赤色矮星を隠すように一直線に並ぶ瞬間、磁場の絡み合いが最大になり、電波が地球方向に放射されます。このタイミングが約2時間ごとに繰り返されるため、観測される電波もその周期で届くのです。このような現象は、中性子星を含まない連星系ではとても珍しく、これまでの天文学の常識を覆す発見と言えます。

 

使用された観測技術と国際協力

今回の発見は、先進的な観測技術と国際的な研究協力のおかげです。主な役割を果たした「LOFAR」は、ヨーロッパ各地に設置された多数のアンテナからなる電波望遠鏡ネットワークで、低周波数の電波を高感度で捉える能力を持っています。2015年から2020年にかけて集められた膨大なデータを解析することで、研究チームはまず電波の存在に気付きました。

さらに、アメリカの光学望遠鏡や他の電波望遠鏡を活用し、発信源の詳細な位置や性質を突き止めることができました。オランダ、英国、アメリカなど複数の国の研究者が協力し、それぞれの専門知識を結集させた結果、この画期的な発見に至ったのです。国際チームの努力がなければ、この謎の電波の正体を解明することは難しかったでしょう。

 

科学的意義と今後の展望

この発見は、天文学におけるいくつかの重要な意義を持っています。まず、赤色矮星白色矮星の連星系が電波を発する新たな仕組みを示したことで、恒星の進化や磁場の相互作用についての理解が深まります。これまで電波の発信源として注目されてきたのは主に中性子星ブラックホールでしたが、矮星連星系も同様の現象を引き起こす可能性があることが分かったのです。

今後、研究チームはさらに高精度な観測を行い、電波の詳細な性質や連星系の環境を調べる予定です。例えば、次世代の電波望遠鏡「SKA(Square Kilometre Array)」が稼働すれば、より鮮明なデータが得られ、この現象の全貌が明らかになることが期待されています。

 

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まとめ:北斗七星の謎が解けた瞬間

北斗七星の方向から届く謎の電波は、赤色矮星白色矮星の連星系が2時間ごとに織りなす天文現象だったことが分かりました。この発見は、国際的な研究チームの努力と最先端の観測技術によってもたらされ、天文学の新たなページを開きました。私たちが夜空を見上げるたびに、そこにはまだ知られざる秘密が隠れていることを感じさせてくれる出来事です。今後の研究で、さらに多くの謎が解き明かされるのを楽しみに待ちたいと思います。