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重力レンズとアインシュタインリングの物理: 数式で読み解く宇宙のレンズ効果

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宇宙を観測する際、遠くの銀河や星がまるで巨大なレンズによって歪んで見える現象が観測されることがあります。これは「重力レンズ」と呼ばれ、アインシュタイン一般相対性理論によって予測された現象の一つです。特に、光源がレンズとなる天体の真後ろにある場合、「アインシュタインリング」と呼ばれる美しい円形の像が形成されることがあります。重力レンズの現象は単なる視覚的な効果ではなく、宇宙の構造やダークマターの分布、さらには遠方宇宙の詳細な観測に欠かせないツールとなっています。この記事では、重力レンズの基本原理を数式を用いて解説し、具体的な数値とともに、その驚異的な現象を深く掘り下げていきます。


重力レンズの基本原理

重力レンズは、光が重力場によって曲げられることによって生じます。一般相対性理論によれば、質量がある天体の周囲では時空が歪み、その結果として光の進行方向が変化します。この効果を数式で表すと、光の偏角 α\alpha は次のようになります。

α=4GMc2b\alpha = \frac{4GM}{c^2 b}

各記号の説明

  • GG : 万有引力定数(6.674×1011m3kg1s26.674 \times 10^{-11} \, \text{m}^3 \text{kg}^{-1} \text{s}^{-2}
  • MM : レンズとなる天体(銀河やブラックホールなど)の質量(kg)
  • cc : 光速(3.0×108m/s3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}
  • bb : 光の最接近距離(m)

例えば、太陽のような天体(質量 M=1.989×1030M = 1.989 \times 10^{30} kg)をレンズとすると、光が太陽の表面をかすめる場合(b7×108b \approx 7 \times 10^8 m)、光の偏角

α4×(6.674×1011)×(1.989×1030)(3.0×108)2×(7×108)\alpha \approx \frac{4 \times (6.674 \times 10^{-11}) \times (1.989 \times 10^{30})}{(3.0 \times 10^8)^2 \times (7 \times 10^8)}

計算すると、約 1.75秒角 になります。これは、1919年の皆既日食で観測された値と一致し、アインシュタインの理論が正しいことを示しました。


アインシュタインリングの形成

特に、光源・レンズ・観測者が一直線に並んだ場合、光が対称的に曲げられるため、円環状の像(アインシュタインリング)が形成されます。このリングの半径は、「アインシュタイン半径」 θE\theta_E と呼ばれ、次の数式で表されます。

θE=4GMc2DLSDLDS\theta_E = \sqrt{\frac{4GM}{c^2} \frac{D_{LS}}{D_L D_S}}

各記号の説明

  • DLD_L : レンズ天体までの距離(m)
  • DSD_S : 背景の光源までの距離(m)
  • DLS=DSDLD_{LS} = D_S - D_L : レンズ天体と光源の間の距離(m)

例えば、銀河をレンズとし、M=1012MM = 10^{12} M_{\odot} (銀河質量)、DL=109D_L = 10^9 光年、DS=2×109D_S = 2 \times 10^9 光年とすると、アインシュタイン半径は数秒角程度になります。これは望遠鏡で観測可能な大きさであり、多くのアインシュタインリングが天文観測で発見されています。


具体的な観測例

1. 「Einstein Cross」

これは、重力レンズの典型的な例で、銀河が背後のクエーサーの光を曲げ、4つの点状の像として見える現象です。これはリングが完全に形成されない場合に見られます。

2. 「SDSS J1004+4112」

これは銀河団によって作られた複雑な重力レンズの例で、5つ以上の像が確認されています。こうした観測は、宇宙の暗黒物質の分布を推定する手段にもなります。


雑学: 重力レンズの応用

1. ダークマターの探索

重力レンズを使うことで、可視光では見えないダークマターの質量分布を推定できます。ダークマターは光を放たないため、直接観測できませんが、重力レンズ効果を通じて間接的に質量の存在を確認できます。

2. 宇宙の拡大率の測定

アインシュタインリングの形状や時系列変化を分析することで、宇宙の膨張速度やハッブル定数を推定する研究が行われています。

3. 未来の天文学技術

理論的には、太陽を重力レンズとして使い、遠くの地球型惑星の詳細な観測を行う「太陽重力レンズ望遠鏡」構想もあります。これは、太陽の重力レンズ効果を利用し、50天文単位(約750億 km)以上の距離から観測する計画です。


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まとめ

重力レンズは、アインシュタイン一般相対性理論の最も美しい予測の一つであり、観測によってその正しさが証明されています。特に、アインシュタインリングは、光が時空の歪みをどのように伝わるかを直感的に理解できる素晴らしい例です。数式を用いることで、この現象を定量的に説明できるだけでなく、ダークマターの研究や宇宙の膨張の測定など、天文学の最前線にも応用されています。これからも、新たな観測によって、より多くのアインシュタインリングが発見されることでしょう。