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インターステラーの5次元を解説!高次元と時空の謎を数式で解き明かす

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映画『インターステラー』は、科学的なテーマを織り交ぜた壮大な物語として知られています。ブラックホールワームホール、そして時空の歪みといった物理学の最前線を描きながら、特に終盤で登場する「5次元」という概念は観客に深い印象を与えます。この5次元空間は、単なる映画的演出に留まらず、現代物理学における高次元空間の理論に根ざしたアイデアでもあります。本稿では、『インターステラー』で描かれる5次元の世界を丁寧に解説し、その背後にある数式や理論を紐解いていきます。さらに、時間や空間がどのように変化するのか、そして高次元の世界がどのように映画に反映されているのかを、数式を交えながら深く掘り下げて説明します。

5次元の世界とは?

まず、「5次元」とはどのようなものかをわかりやすく説明します。私たちが普段生活の中で認識している世界は、長さ、幅、高さという3つの空間次元と、時間の流れという1つの時間次元から成る「4次元時空」で構成されています。この4次元時空は、アインシュタイン相対性理論によって初めて明確に定義された概念であり、私たちの日常的な経験とも一致するものです。しかし、現代の物理学では、この4次元を超える「高次元空間」の存在が理論的に検討されています。例えば、弦理論やM理論といった最先端の理論物理学では、宇宙が10次元や11次元で構成されている可能性が議論されています。

インターステラー』における5次元空間は、この高次元空間の概念を基にしたものです。映画では、5次元空間が「高次元の存在」によって構築され、時間や空間を超えた領域として描かれています。特に興味深いのは、この5次元空間が単なる物理的な領域に留まらず、「愛」や「感情」といった人間的な要素をも表現する場として提示されている点です。この発想は、時間を空間のように自由に操作できる特殊な次元として5次元を捉えることで成り立っています。では、この5次元とは具体的にどのような性質を持つものなのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。

 


高次元空間と時空の歪み

インターステラー』の5次元空間の特徴として、時間が物理的な空間の一部として扱われている点が挙げられます。私たちが普段経験する4次元時空では、時間は一方通行の流れとして進み、過去から未来へと直線的に移動します。しかし、5次元空間では、時間が空間的な次元と同様に扱われ、過去、現在、未来が同時に存在する場として描かれています。この概念は、一般相対性理論における「時空の歪み」を理解する上で重要な手がかりとなります。

ここで、4次元時空を数式で表してみましょう。アインシュタイン一般相対性理論に基づく時空の構造は、次のように記述されます。

 

ds2=c2dt2+dx2+dy2+dz2ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2

  • は時空の間隔(距離)を表します。
  • c c は光速であり、時間と空間を結びつける定数です。
  • dt dt は時間の微小な変化を表します。
  • dx,dy,dz dx, dy, dz  はそれぞれx軸、y軸、z軸方向の空間座標の変化を表します。

この式は、空間の3次元(x, y, z)と時間の1次元(t)が一体となった4次元時空を表現しており、時空が一つの連続した枠組みとして扱われていることを示しています。ブラックホールや重力の強い場所では、この時空が歪み、時間が遅くなったり空間が曲がったりする現象が起こります。『インターステラー』でも、こうした時空の歪みが物語の鍵となっています。

では、5次元空間ではどうなるのでしょうか。映画では、5次元空間が時間の流れを超えた領域として描かれています。これを数式で拡張すると、次のようになります。

 

ds2=c2dt2+dx2+dy2+dz2+dw2ds^2 = -c^2 dt^2 + dx^2 + dy^2 + dz^2 + dw^2

 

ここで新たに登場する dw dw  は、5次元空間における追加の座標軸を表します。この w w は、時間や空間とは異なる仮想的な次元と考えられ、映画では時間を空間的に操作するための軸として機能していると解釈できます。つまり、5次元空間では、時間が単なる流れではなく、x, y, zと同じように自由に移動可能な「方向」として扱われるのです。この発想により、過去や未来にアクセスできるという映画の描写が理論的に裏付けられるのです。

 

実際の物理学における高次元空間のモデル

映画の描写はフィクションではありますが、実際の物理学でも5次元以上の空間を考える理論が存在します。その一つが「ブレーンワールド」モデルです。このモデルでは、私たちが住む3次元空間が、実は高次元空間内に浮かぶ「膜(ブレーン)」のようなものに張り付いていると仮定します。この理論は、超弦理論M理論の一部として提案されており、重力を他の力と統一的に説明する試みの一環です。

例えば、カラビ・ヤウ多様体と呼ばれる数学的な構造を用いて、余分な次元が微小に折り畳まれていると考えられています。これにより、私たちが普段感知できない高次元が宇宙の背後に隠れている可能性が示唆されています。『インターステラー』の5次元空間も、このような理論的なアイデアを映画的に解釈したものと見ることができるでしょう。

 


5次元空間と「愛」の表現

映画のクライマックスで、主人公クーパーは5次元空間内で娘マーフとコミュニケーションを取ります。ここで注目すべきは、5次元空間が単なる物理的な領域を超えて、「愛」や「絆」といった抽象的な概念を表現する場として描かれている点です。この描写は科学的根拠を持つものではありませんが、非常に詩的で人間的な解釈として心に残ります。

5次元空間では、時間の流れが空間と一体化しているため、過去、現在、未来が同時に存在します。この性質を数式で表す場合、時間軸を超越する高次元の座標を導入する必要があります。例えば、物体の運動を時間の関数として記述する基本的な式を見てみましょう。

x(t)=x0+vt+12at2x(t) = x_0 + v t + \frac{1}{2} a t^2

ここで、

  • x(t)x(t) は物体の位置
  • x0x_0 は初期位置
  • vv は速度
  • aa は加速度
  • tt は時間

この式は、時間が一方通行に進む4次元時空での運動を表します。しかし、5次元空間では、時間が単一の方向に進む制約がなくなり、過去、現在、未来が多次元的に連結されます。これにより、クーパーが過去の娘にメッセージを送るというシーンが理論的に可能となるのです。

 


5次元と相対性理論のつながりについて

アインシュタイン相対性理論では、時間と空間が「時空」という一つの連続体として扱われます。この考え方を5次元に拡張すると、私たちが経験する時間の流れが、他の次元から見れば単なる「位置」に過ぎないと捉えられます。『インターステラー』では、この理論を基に、5次元空間から過去や未来を「見る」ことが可能な場面が描かれています。

例えば、一般相対性理論におけるシュワルツシルト解を考えてみましょう。これはブラックホール周辺の時空を記述する式で、次のようになります。

 

ds2=(12GMrc2)c2dt2+(12GMrc2)1dr2+r2(dθ2+sin2θdϕ2)ds^2 = -\left(1 - \frac{2GM}{rc^2} \right)c^2 dt^2 + \left(1 - \frac{2GM}{rc^2} \right)^{-1} dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)

ここで、

この式は、ブラックホール近傍で時間が遅くなる現象(重力による時間膨張)を説明します。『インターステラー』のミラーの惑星でのシーンも、この理論に基づいています。5次元空間では、さらにこの時空を拡張し、時間を空間的に操作する視点が加わるのです。

 


終わりに

インターステラー』で描かれる5次元空間は、科学的には極めて複雑で難解な概念を含んでいます。しかし、それを数式や理論を用いて紐解くことで、映画の深いテーマをより鮮明に理解することができます。時間が空間と同じように扱われるという発想は、私たちの日常的な認識を超えた新しい世界観を提示しており、観る者の想像力を大いに刺激します。

このように、5次元空間の理論を基にした『インターステラー』の世界は、物理学や数学を通じて深く探求することが可能です。映画が伝えたかった「時間」や「愛」のメッセージも、これらの理論的背景を知ることで一層心に響くものとなるでしょう。科学と芸術が交錯するこの作品は、私たちに宇宙の神秘と人間の可能性について考えさせてくれる貴重な存在です。